大企業を中心にニュース等で目にする「株主代表訴訟」。しかし経営に関わっていれば中小企業でも他人事ではありません。むしろ、個人的なトラブルが生じやすい中小企業だからこそ、リスクは高いといえます。株主代表訴訟を理解し、防ぐためのポイントを解説します。

〇株主代表訴訟とは
 株主代表訴訟とは、株式会社の経営者である取締役に対し、株主が会社に代わってその経営責任を追及し、損害賠償を請求する訴訟手続です。会社法では、「責任追及等の訴え」といいます。
 取締役などの経営者による違反行為や経営判断のミスなどで会社が損害を被った場合、本来は、取締役らに対して会社そのものが責任追及をしなくてはなりません。しかし、代表者としての役割を担う監査役なども、取締役との人間関係で追及の責務を怠ることもあります。このような時に、株主が会社を代表して責任追及を行うのが、株主代表訴訟です。
 株主代表訴訟と言うと「勝訴した時の利益は株主が享受するもの」と思われがちですが、これは誤解です。取締役への賠償請求が認められても、賠償金を受け取るのは会社であって株主ではありません。株主代表訴訟において、株主はあくまでも「会社の代理」でしかないのです。

〇中小企業で株主代表訴訟が起こる原因
 中小企業において株主代表訴訟が起きる原因としては、以下のようなことが考えられます。

・経営者一族による私的流用
「会社は社会の公器」と言われる反面、「会社は社長のもの」と考えている経営者は少なくありません。社長やその親族のプライベートの支出を会社の経費として処理し、会社からの貸付金で不動産を購入するようなケースもあるでしょう。
 経営者一族による会社資産の私的流用は、会社の利益を圧迫するだけでなく少数株主や従業員の心証を悪くし、会社全体の士気を下げかねません。株主代表訴訟の材料とされても仕方ないことであり、公私を区別すべきなのは言うまでもありません。

・取締役会・株主総会がいい加減
 中小企業では、「経営者=株主」であることが多く、取締役会や株主総会が適切に行われないことがあり、議事録の発行などがなされないケースもあります。このような事態は他の株主からの反発を招きかねず、たとえ身内だけの会議であっても、役員の立場で参加するのであれば馴れ合いは厳禁です。

・相続・金銭トラブル
 自社株の相続や役員同士の金銭の貸し借りに関するトラブルも、株主代表訴訟の原因になっています。相続での金銭トラブルは、他の親族株主の私怨を生む可能性もあるため、相続では不公平さを防ぐための事前対策が必要です。また、お金の貸し借りは最初から行わないか、行うなら契約書を作成するなどの対処を行うようにしましょう。

〇株主代表訴訟を防ぐためのポイント

 中小企業であるが故に起こりやすい株主代表訴訟を防ぐためには、以下の3点を意識しましょう。
 (1)内部統制システムを構築する
株主代表訴訟を防ぐためには、役員が不正を行いにくいシステムを作っておくことが重要です。役員同士がお互いを監視できるような内部統制システムを構築しておけば、訴訟リスクはかなり軽減されます。
具体的には、取締役会などの会議の議事録を作成する他、損益計算書や貸借対照表などの財務諸表や試算表の定期的なチェック、内部監査・内部通報制度の確立などです。
ただし、「システムを作って終わり」では、内部統制システムそのものが形骸化し、再び不正が起こる恐れもあります。システムがきちんと機能しているか否かも、定期的に確認しなくてはなりません。
 (2)自社株を分散させない
 中小企業に多い同族会社での株主代表訴訟は、自社株が分散している状態であるため、対立派閥や少数株主からの提訴が少なくありません。自社株の分散は、株主代表訴訟だけでなく、株主総会での議決がまとまり難くなるといった問題も孕んでいます。株主代表訴訟がなくても、会社経営が難航する原因になりやすいのです。
 自社株の分散を防ぐためには、以下の2つの対策が効果的です。
 1.分散した株式を買い集める
分散した株式を買い集めるには、株主に交渉しなくてはなりません。協力的な株主ならよいですが、中には非協力的な株主もいるでしょう。そういったときはスクイーズアウト(少数株主排除)を検討するとよいでしょう。
 2.最初から株式が分散しないような仕組みを作る
株式が分散しない仕組みを作るなら、事業承継の段階で次の後継者に株式を集中させるとよいでしょう。ただ、事情により他の親族に株式を譲らざるを得ないときもあると思います。この場合、相続人等に対する売渡請求について、定款で定めておくとよいでしょう。定款に規定があれば、株主が死亡して自社株に相続が発生したときに株式を回収できます。
 この他、株式譲渡制限条項を定款に定めるのも有効です。株主総会または取締役会、代表取締役の承認を必要とする条項があれば、会社との関わりが薄い人間が株主になる状況を防ぐことができます。
 (3)取締役の責任を制限する
 『会社法第425条』では、役員の職務遂行において善意かつ重大な過失がなければ、賠償責任額を次の最低限度額まで制限できるとされています。
 ・代表取締役や代表執行役:年間報酬の6倍
 ・その他の社内取締役・執行役:年間報酬の4倍
 ・社外取締役・会計参与・監査役・会計監査人:年間報酬の2倍
 これには株主総会の特別決議か取締役会の決議が必要ですが、取締役決議で責任を軽減したいのなら、この旨をあらかじめ定款に定めておくとよいでしょう。
 
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