2026年度税制改正で、建物を含む大型投資を後押しする「大胆な投資促進税制」が創設されました。これまでの設備投資減税は、機械装置やソフトウェアなど動産が中心で、工場や店舗といった「建物」は対象になりにくいのが実情でした。今回の新制度では、一定要件を満たす投資計画について、建物を含めて即時償却または税額控除を選択できるようになります。投資規模が大きいだけに、要件や手続きを早めに理解しておくことが重要です。
本記事では、認定経営革新等支援機関の立場から、制度の概要、措置内容、申請の流れ、活用にあたっての注意点までを、具体例を交えてわかりやすく解説します。
第1章|大胆な投資促進税制とは
大胆な投資促進税制は、正式には「特定生産性向上設備等投資促進税制」といい、国内投資の拡大を通じて企業の「稼ぐ力」を高めることを目的とした税制です。中小企業向けの投資減税としては、これまでも中小企業経営強化税制や中小企業投資促進税制などがありましたが、いずれも建物は対象外、あるいは限定的な扱いにとどまっていました。
今回の制度は、こうした従来の枠組みとは一線を画し、建物・建物附属設備・構築物までを正面から対象に含めた点が最大の特徴です。背景には、国内への設備投資・工場誘致を後押しし、企業の収益力そのものを底上げしたいという政策意図があります。
| 項目 | 内容 |
| 対象業種 | 幅広い業種が対象(風俗営業等の用に供する場合など一部業種を除く) |
| 対象者 | 青色申告書を提出し、投資計画の確認を受けた法人・個人 |
| 対象設備 | 機械装置、工具、器具備品、建物、建物附属設備、構築物、一定のソフトウェア |
| 要件 | 経済産業大臣の確認を受けた上記種類の設備であり、①投資利益率:年平均15%以上 ②投資下限額:中小企業者等は5億円以上 ③投資計画が取締役会等の適切な機関の意思決定に基づくもの 等を満たすこと |
| 措置期間 | 令和11年3月31日までに投資計画の確認を受け、確認日から5年以内に取得・事業供用 |
| 措置内容 | 即時償却または税額控除 |
なお、本制度の適用を受ける投資計画の期間中は、中小企業経営強化税制や中小企業投資促進税制など、他の設備投資減税とは併用できません。どちらが自社にとって有利かは、投資規模や設備の内容によって変わるため、事前のシミュレーションが欠かせません。
第2章|措置内容(即時償却・税額控除の率)
措置内容は、対象設備の種類によって2段階に分かれています。
- 即時償却または税額控除7%:機械装置、工具、器具備品、一定のソフトウェアなど
- 即時償却または税額控除4%:建物、建物附属設備、構築物
即時償却を選ぶ場合、取得価額を一括でその事業年度の損金に算入できるため、投資をした年度に大きな節税効果が生まれます。一方、税額控除を選ぶ場合は、取得価額に上記の率を乗じた金額を法人税額から直接差し引くことができます(税額控除は法人税額の20%が上限です)。
例えば、工場建屋(建物)に10億円を投資した場合、税額控除を選択すると4%にあたる4,000万円を法人税額から控除できる計算になります(法人税額の20%の上限の範囲内であることが前提です)。機械装置への投資であれば率は7%となるため、同じ投資額でも対象設備の種類によって控除額が大きく変わる点に注意が必要です。
どちらの措置が有利かは、その年度の業績(課税所得・法人税額)や、資金繰りの状況によって異なります。即時償却は初年度の税負担を大きく軽減できる一方、税額控除は複数年にわたって安定的に効果を得やすいという違いがあるため、自社の状況に応じて選択することが大切です。
第3章|ここがポイント!建物も対象に
この制度の最大の特徴は、建物も即時償却・税額控除の対象に含まれる点です。たとえば、次のようなケースが想定されます。
- 製造業が、新製品の量産に向けて新工場を建設し、あわせて生産設備を導入する
- 物流業が、事業拡大に伴い大型倉庫を新設する
- 小売・サービス業が、旗艦店舗を新設し、合わせて内装設備・什器を導入する
いずれも、建物単体ではなく、事業の「稼ぐ力」向上につながる投資計画の一部として建物が組み込まれているケースです。要件を満たせば、建物部分についても即時償却・税額控除の対象となり、大きな税負担軽減につながる可能性があります。
ただし、ここで特に注意したいのが、建物のみの投資計画は対象外となる点です。あくまで本制度は「生産性向上」を目的とした投資促進税制であるため、事業用の機械装置やソフトウェアへの投資と一体となった計画であることが前提となります。単に老朽化した社屋を建て替える、といった投資のみでは要件を満たさない可能性が高いため、計画段階から専門家に相談しながら整理することをおすすめします。
第4章|適用を受けるための3つの要件
本制度の適用を受けるには、経済産業大臣の確認を受けた投資計画であることに加え、主に次の3つの要件を満たす必要があります。
① 投資利益率:年平均15%以上
投資計画によって見込まれる利益の増加額を、投資額で割って算出する指標です。単なる設備更新ではなく、収益力の向上に明確につながる投資であることが求められます。投資利益率の算定方法は一定のルールに基づいて行う必要があるため、計画段階で税理士・公認会計士など専門家の確認を受けることが前提となります。
② 投資下限額:中小企業者等は5億円以上
本制度は、文字どおり「大胆な」投資を対象としているため、投資下限額のハードルも相応に高く設定されています。中小企業者等であっても5億円以上の投資規模が求められる点は、他の中小企業向け税制と比べても大きな違いです。複数年にわたる投資計画を一体として申請することで、下限額を満たせるケースもあるため、自社単独の投資額だけで判断せず、計画全体で検討することが重要です。
③ 投資計画が取締役会等の適切な機関の意思決定に基づくもの
投資計画が、思いつきや個人の判断で進められたものではなく、取締役会など会社の正式な意思決定機関を通じて決議されたものであることが必要です。議事録の整備など、ガバナンス面の対応もあわせて求められます。
第5章|申請の流れ
申請から税務申告までは、おおむね次の5つのステップで進みます。
| STEP | 内容 | 詳細 |
| STEP1 | 投資計画の策定 | 取締役会等で決議 |
| STEP2 | 事前確認書の取得 | 税理士・公認会計士に依頼 |
| STEP3 | 確認申請・確認書の取得 | 所轄の経済産業局へ申請 |
| STEP4 | 設備の取得・事業供用 | 確認日から5年以内 |
| STEP5 | 税務申告 | 確認書・事後照合書を提出 |
STEP2の「事前確認書」は、投資利益率の算定など専門的な内容を含むため、税理士・公認会計士による確認が必要とされています。その上でSTEP3として、所轄の経済産業局へ確認申請を行い、確認書の交付を受けるという流れです。
確認を受けた後も、確認日から5年以内に実際に設備を取得し、事業の用に供する必要があります。また、申請にあたってはGビズIDプライムアカウントの取得が必要となるため、未取得の場合は早めに準備を進めておきましょう(GビズIDプライムアカウントの発行には、申請から利用開始まで一定の日数がかかります)。
第6章|活用にあたっての注意点
- 投資下限額のハードルが高い:中小企業者等であっても5億円以上という要件は、通常の中小企業向け設備投資減税と比べて高額です。自社の投資規模が要件を満たすか、まず確認しましょう。
- 他の設備投資減税との併用不可:投資計画の期間中は、中小企業経営強化税制など他の設備投資減税と併用できません。どちらを選ぶべきか、シミュレーションを踏まえて判断する必要があります。
- 建物のみの投資計画は対象外:機械装置やソフトウェアなど、収益力向上に資する設備投資と一体であることが前提です。
- 措置期間が限られている:投資計画の確認を受けられるのは令和11年3月31日までです。大型投資には計画策定から確認、設備取得までに相応の時間がかかるため、検討している企業は早めに動き出す必要があります。
まとめ・ご相談案内
大胆な投資促進税制は、建物を含む大型投資で税負担の軽減を受けられる、これまでにない規模の制度です。一方で、投資下限額5億円以上という要件や、取締役会決議・事前確認書の取得など、準備すべき事項も多岐にわたります。「自社の投資計画は対象になりそうだ」と感じた場合は、できるだけ早い段階でのご相談をおすすめします。
「自社の投資計画が投資利益率15%以上の要件を満たすか試算してほしい」「即時償却と税額控除、どちらが有利か比較したい」「他の設備投資減税との比較検討をしたい」「GビズIDの取得から事前確認書の作成までサポートしてほしい」——そんな方は、ぜひお早めに私どもへご相談ください。認定経営革新等支援機関として、税務のご相談はもちろん、経営改善計画書の作成、各種補助金申請、優遇金利での資金調達まで、幅広くサポートいたします。
まずはお気軽にお問い合わせください。大型投資を見据えた税制活用を、一緒に進めていきましょう。