6月から7月にかけては、給与・労務まわりの手続きが一年でもっとも集中する時期です。住民税の年度切替に始まり、労働保険の年度更新、社会保険の算定基礎届と、期限のある手続きが立て続けに訪れます。さらに9月決算法人にとっては、上半期を締めくくり下半期の対策を考え始める節目でもあります。
これらは一つひとつは毎年の定例業務ですが、料率や様式、提出方法は年度ごとに見直しが必要です。2026年(令和8年)も雇用保険料率の引下げをはじめとした変更点があり、前年の設定や資料をそのまま流用すると思わぬミスにつながりかねません。本記事では、6月以降に確認しておきたい実務ポイントを、住民税・労働保険・9月決算準備の3つの切り口で整理します。
6月にまず確認したい3つのポイント
6月以降の労務手続きでまず押さえたいのは、第一に、5月に届く住民税の特別徴収税額決定通知書をもとに6月支給分の給与から新年度の天引き額へ切り替えること、第二に、6月1日から7月10日までの労働保険の年度更新を、2026年度の最新料率で正しく申告・納付すること、第三に、同じ7月10日が期限となる社会保険の算定基礎届の準備を並行して進めることです。
いずれも期限が明確に定められた手続きであり、後回しにすると追徴金や保険者算定といった不利益につながる場合があります。支給日直前にまとめて処理するのではなく、5月下旬から6月初旬の段階で全体像を把握しておくと、実務が安定します。
住民税は6月が年度の切替タイミング
6月は住民税(特別徴収)の年度が切り替わる月であり、給与計算担当者にとって年に一度の重要な処理月です。多くの自治体では5月中旬頃に「特別徴収税額の決定通知書」が事業所宛に送付され、これに基づいて6月支給分の給与から新年度の特別徴収が始まります。前年度から継続して特別徴収となっている従業員も、6月分から新しい年度の税額に変わります。
住民税の年度は6月から翌年5月までの1年間で構成されます。年間の税額を12分割して毎月の給与から天引きしますが、端数は6月分に上乗せして調整されるため、6月だけ他の月より天引き額がやや高くなるのが一般的です。「6月の手取りが少ない」という従業員からの問い合わせは毎年発生しやすいため、この仕組みをあらかじめ把握しておくと対応がスムーズです。
参照:
特別徴収税額の決定通知書・給与支払報告書の提出について|eLTAX
入社・退職者の切替手続きに注意
住民税の実務で見落としやすいのが、入社者・退職者の切替手続きです。
入社時点で前職を退職していた場合、その間に住民税が普通徴収(本人が自分で納付)に切り替わっているケースが少なくありません。新たな勤務先で特別徴収を行う場合は、あらためて「特別徴収切替申請書(普通徴収から特別徴収への切替申出書)」を市区町村へ提出する必要があります。切替が受理されるまでにはタイムラグがあるため、その間に本人がすでに納付した分との二重納付が起こらないよう、納付状況を確認しておきましょう。
また、6月以降に入社した従業員であっても、その年度の住民税が残っていることが大半です。年の途中からでも特別徴収へ切り替える手続きが必要になる点に留意してください。
なお、住民税はその年の1月1日時点の住所地で課税されるため、年の途中で従業員が引っ越しても、その年度の納付先自治体は変わりません。住所変更の届出は適切に行うよう、従業員への周知を徹底しておくと安心です。
参照:
給与支払報告書・給与所得者異動届出書の提出について|eLTAX
通知書の電子化(eLTAX)も進んでいます
特別徴収税額通知については、令和6年度よりeLTAX(エルタックス)を通じた電子データでの受取が本格的に推進されています。会社が電子データでの受取を選択すると、紙の通知書を保管・配付する手間がなくなり、従業員へPDFや社内システム経由でスムーズに通知を渡せるようになります。
電子受取を利用するには、毎年1月末が期限の給与支払報告書の提出時に、eLTAX上で受取方法を「電子データ」に設定しておく必要があります。来年度に向けて電子化を検討する場合は、年明けの提出スケジュールから逆算して準備を進めておくとよいでしょう。
参照:
特別徴収税額通知の電子化について|eLTAX(地方税共同機構)
労働保険の年度更新(6月1日〜7月10日)
労働保険の年度更新は、前年度に支払った賃金をもとに労災保険料と雇用保険料を精算(確定保険料)し、同時に新年度分の概算保険料を申告・納付する、年に一度の手続きです。令和8年度(2026年度)の申告・納付期間は、2026年6月1日(月)から7月10日(金)までです。
申告書は所轄の労働基準監督署・都道府県労働局、または金融機関へ提出するほか、電子申請(e-Gov)や口座振替も利用できます。なお、電子申請を含め5月中に申告・納付を行うことはできないため、準備は早めに進めつつ、受付開始を待って提出します。
年度更新では、石綿健康被害救済法に基づく「一般拠出金」(料率は1,000分の0.02)も、確定保険料とあわせて申告・納付します。別途の手続きは不要ですが、申告書の該当欄への記載漏れに注意してください。
参照:
2026年度の重要な変更点|雇用保険料率の引下げ
令和8年度の年度更新でとくに注意したいのが、雇用保険料率の引下げです。
令和8年度の雇用保険料率は、一般の事業で前年度の1.45%から0.1%引き下げられ、1.35%となりました。内訳は、労働者負担が0.5%(5/1,000)、事業主負担が0.85%(8.5/1,000)で、いずれも前年度から0.05%の引下げです。これは「失業等給付」部分の料率が引き下げられたことによるもので、雇用保険二事業(事業主のみ負担)の料率に変更はありません。農林水産・清酒製造の事業、建設の事業も同様に、前年度から0.1%の引下げとなっています。
一方、労災保険率・労務費率・第2種特別加入保険料率は、いずれも令和7年度と同率で変更はありません。
雇用保険料率は毎年4月1日から適用されるため、すでに4月以降の給与計算には新料率が反映されているはずですが、賞与を含む賃金にも同じ料率を適用する前提で、控除設定にずれがないかをこの機会に確認しておくと安心です。
参照:
延納(分割納付)と申告遅延のペナルティ
概算保険料の額が一定額以上などの要件を満たす場合は、保険料を3期に分けて納める「延納(分割納付)」が可能です。令和8年度の各期の納期限は、第1期が2026年7月10日、第2期が2026年11月2日、第3期が2027年2月1日です(本来の納期限が土日にあたるため、翌開庁日にずれています)。一括で納める場合の期限は7月10日です。
申告・納付が遅れると、政府が保険料を職権で決定したうえ、確定保険料の10%程度の追徴金が課される可能性があります。期限内の対応を心がけましょう。
なお、今年度より、電子申請が義務付けられている法人(資本金1億円超の会社など)には紙の申告書が送付されず、代わりに電子申請に必要な情報が記載された通知書が送付される運用に変わっています。該当する法人は、申告書が届かないことに戸惑わないよう留意してください。
参照:
同時期に進める社会保険の算定基礎届
労働保険の年度更新と並行して準備したいのが、社会保険の算定基礎届(定時決定)です。令和8年度の提出期間は、2026年7月1日(水)から7月10日(金)までで、労働保険の納付期限と同じ日が期限となります。
算定基礎届は、4月・5月・6月に支払った報酬をもとに新しい標準報酬月額を決定する手続きで、決定された標準報酬月額は9月分の社会保険料から反映されます。支払基礎日数が17日未満の月は計算から除外する点や、6月1日以降に入社した従業員は対象外となる点など、対象者の判定には注意が必要です。
提出期限について「7月末まで」と誤解されることがありますが、法定の期限は7月10日です。2026年は同日が金曜日にあたるため、土日による期限の延長はありません。届出が遅れると保険者が職権で標準報酬月額を決定する「保険者算定」となり、後日の調整や追徴のリスクがあるため、期限内の提出を徹底しましょう。
あわせて、2026年4月からは子ども・子育て支援金が新設され、健康保険料率や介護保険料率も改定されています。算定基礎届の記載方法そのものに変更はありませんが、決定後の標準報酬月額に基づく保険料計算の前提が変わっている点は押さえておきたいところです。
参照:
算定基礎届の記入・提出ガイドブック(令和8年度)|日本年金機構
あわせて始めたい9月決算法人の準備
9月決算の法人にとって、夏は事業年度の上半期を締めくくり、決算へ向けた対策を考え始める時期にあたります。決算月(9月末)になってから慌てて検討するのではなく、6月から8月のうちに上半期の業績を把握し、下半期の方針を固めておくことで、打てる手の選択肢が広がります。
具体的には、上半期の損益実績の確認、通期の着地見込みの試算、設備投資や経費計上のタイミングの検討、消費税の納税予測、そして納税資金の確保などが挙げられます。とくに利益が想定以上に出る見通しであれば、決算期末までに実行できる対策には期限があるため、早めに顧問税理士へ相談しておくことをおすすめします。
労務手続きと決算準備は所管が分かれがちですが、いずれも資金繰りに影響する点では共通しています。6〜7月は保険料の納付が重なる時期でもあるため、手続きと資金計画を一体で見ておくと安心です。
6〜7月の実務チェックリスト
6月から7月にかけての手続きは、次の順で確認すると効率的です。
- 住民税の特別徴収税額決定通知書を受け取り、6月支給分の給与から新年度の天引き額へ更新したか
- 入社者・退職者の住民税の切替手続き(普通徴収から特別徴収など)に漏れがないか
- 労働保険の年度更新を、2026年度の雇用保険料率(一般の事業で合計1.35%)で正しく計算したか
- 一般拠出金の記載や、延納を選ぶ場合の各期の納期限を確認したか
- 社会保険の算定基礎届の対象者を判定し、7月10日までの提出準備ができているか
- 9月決算法人は、上半期実績と通期見込みを把握し、決算対策の検討を始めたか
計算そのものよりも、料率や様式の更新漏れ、対象者の判定ミスでつまずくことが多い手続きです。期限直前ではなく、余裕をもって総点検しておきましょう。
まとめ
6月から7月は、住民税の年度切替・労働保険の年度更新・社会保険の算定基礎届と、期限のある手続きが集中する繁忙期です。2026年(令和8年)は雇用保険料率の引下げや子ども・子育て支援金の新設など、前提となる料率・制度の見直しが続いており、前年の設定をそのまま流用するのは避けたいところです。
さらに9月決算法人にとっては、決算へ向けた準備を始める好機でもあります。手続きの期限と資金の動きを早めに見える化し、ミスのない対応につなげていきましょう。