4月は新年度のスタート。新しい体制で走り出すこの時期に、経営者・経理担当者が必ず確認すべき変更点が、今年は例年にも増して多くなっています。令和8年度(2026年度)の税制改正は「物価高への対応」と「強い経済の実現」を2本柱に、令和7年12月26日に閣議決定されました。所得税・法人税・消費税(インボイス制度)・社会保険と、企業経営に直結する幅広い分野にわたる改正です。特に今年は4月と10月の2段階で変更が入るため、先を見越した対応が求められます。
本記事では中小企業の実務に影響が大きいポイントに絞って、わかりやすく解説します。
第1章|令和8年度 税制改正の全体方針
今回の税制改正の背景には、近年続く物価上昇があります。賃金・物価ともに上昇する中、国民の可処分所得を守り、消費・投資を活性化させる狙いが込められています。改正の影響は主に次の4つの領域に及びます。
- ①所得税:基礎控除・給与所得控除の引上げによる「年収の壁」の見直し
- ②法人税:中小企業向けの設備投資優遇・賃上げ促進税制の維持・拡充
- ③消費税(インボイス制度):経過措置の変更(2026年10月施行)
- ④社会保険:保険料率の改定と適用対象の拡大(4月・10月の2段階)
それぞれ施行時期が異なるため、「いつ・何が変わるのか」をスケジュールで整理しておくことが重要です。
第2章|所得税改正 — 従業員の手取りが変わる!給与計算の確認を
令和8年度税制改正の目玉のひとつが、所得税の「年収の壁」の大幅な引上げです。従来103万円だった課税最低限が178万円へと引き上げられます。これは基礎控除と給与所得控除の2つが同時に引き上げられることによるものです。
具体的な改正内容は次のとおりです。
- 基礎控除(本則部分):58万円 → 62万円(+4万円)
- 給与所得控除(最低保証額):65万円 → 74万円(本則4万円+特例5万円の加算)
- 課税最低限(年収の壁):約103万円 → 178万円
この改正は2026年1月1日以後に支払われる給与から適用されています。源泉徴収税額表はすでに改訂済みですので、給与計算ソフトやシステムが最新版に対応しているかを今すぐ確認してください。旧バージョンのまま計算を続けると、源泉徴収額に誤りが生じ、年末調整で大きな差額が生まれる可能性があります。
また、パートやアルバイトを雇用している事業所では、従業員への周知が不可欠です。これまで「103万円を超えないよう働く時間を調整していた」従業員が、今後は178万円まで扶養の範囲内で働けるようになります。シフト調整の考え方が変わるため、早めに従業員全員へ説明の機会を設けましょう。
さらに、年末調整に使用する「扶養控除等申告書」の記載内容にも影響します。家族の扶養状況を改めて確認し、適切に申告してもらうよう、秋の年末調整シーズン前に案内しておくと安心です。
第3章|法人税改正 — 中小企業が使える優遇措置
法人税の分野では、大企業向けの優遇措置が縮小・廃止される一方で、中小企業向けの支援策は維持・拡充されています。今期の決算や来期の設備投資計画に直接影響するポイントを確認しておきましょう。
■ 少額減価償却資産の特例が拡充
これまで30万円未満の減価償却資産を一括で経費計上できる特例(中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入特例)が、令和8年度改正で40万円未満に引き上げられました。適用期限も令和11年3月31日まで3年間延長されています。
たとえば、1台38万円のパソコンや業務ソフトウェアも、これまでは複数年にわたって減価償却する必要がありましたが、今後は購入した年度に全額経費として計上できます。機器・ソフトウェアの買い替えや新規導入を検討している場合は、この特例を活用した購入タイミングの検討が有効です。
■ 賃上げ促進税制(中小企業向けは維持)
従業員への給与を増やした場合に、その増加額の一定割合を法人税から控除できる「賃上げ促進税制」は、大企業向けの措置が2026年3月末をもって廃止されますが、中小企業向けの措置は令和11年3月31日まで延長されました。
ただし、全企業に共通していた「教育訓練費の上乗せ措置(10%控除)」は廃止されます。賃上げを計画している場合は、控除額の計算方法が変わる可能性があるため、顧問税理士と早めにシミュレーションしておくことをお勧めします。
第4章|インボイス制度の経過措置が変わる(2026年10月〜)
2023年10月に始まったインボイス制度(適格請求書等保存方式)には、免税事業者(インボイスを発行できない事業者)からの仕入れについて段階的に控除を認める「経過措置」が設けられていました。この経過措置が、令和8年度税制改正によって変更されます。
従来のスケジュールでは、2026年10月以降は仕入税額控除が80%から50%に下がる予定でしたが、今回の改正で「70%控除の期間」が新設され、さらに2年間延長されました。改正後のスケジュールは次のとおりです。
- 〜2026年9月末:免税事業者からの仕入れの80%を控除可能(現行)
- 2026年10月〜2028年9月末:70%を控除可能(新設・2年間延長)
- 2028年10月以降:経過措置終了(控除不可)
また、売り手側(主に個人事業者・フリーランス)向けには、「3割特例」が新設されました。これはインボイスを発行しない免税事業者であっても、一定の条件のもとで消費税の負担を軽減する2年間限定の措置です。
自社が仕入れを行っている取引先の中に免税事業者がいる場合は、2028年10月の経過措置終了を見据え、インボイス登録を依頼するか、取引条件を見直すかを含めた対応方針を早めに検討しておくことが重要です。
第5章|2026年度 社会保険の改正ポイント
【2026年4月施行】
2026年3月分(翌月控除の場合は4月支給分)から、社会保険料率が改定されます。
- 健康保険料率(東京都・協会けんぽ):9.91% → 9.63%(引下げ)
- 介護保険料率(全国一律):1.59% → 1.62%(引上げ)
- 子ども・子育て支援金:新設 0.23%(給与から控除)
- 厚生年金保険料率:18.300%(変更なし)
健康保険料率が下がる一方で、介護保険料率の引上げと「子ども・子育て支援金」の新設によって、実質的な保険料負担はほぼ横ばいか若干増加する事業所もあります。給与計算システムへの料率反映は早急に行いましょう。翌月控除の事業所は4月支給の給与から、当月控除の事業所は3月支給の給与から新料率が適用されます。
なお、健康保険料率は都道府県・健康保険組合によって異なります。協会けんぽ以外に加入している事業所は、各組合の料額表を確認してください。
また、2026年4月からは「130万円の壁」の扶養認定方法が変わります。これまでは過去の収入実績や将来の見込みを総合的に判断していましたが、今後は「労働契約書(労働条件通知書)に記載された年収見込み」を基準に判定されます。扶養に入る家族がいる従業員には、労働条件通知書の内容を正確に把握・管理するよう案内しましょう。
【2026年10月施行】
2026年10月からは、社会保険の適用拡大が進みます。現行では「月額賃金8.8万円以上(年収換算106万円以上)」という賃金要件がありましたが、これが撤廃されます(いわゆる「106万円の壁」の撤廃)。これにより、週20時間以上勤務していれば、月収の額にかかわらず社会保険への加入が義務付けられます。
パートやアルバイトを多く雇用している事業所では、新たに加入対象となる従業員が増加し、社会保険料のコスト負担が増える可能性があります。10月までに対象者を洗い出し、本人への説明と手続き準備を進めておくことが重要です。
第6章|新入社員の社会保険手続き 注意点チェックリスト
4月は多くの企業で新入社員が入社する時期です。社会保険手続きには法定の期限があり、遅延すると従業員の医療給付や年金記録に影響を及ぼすことがあります。今年は制度変更も重なるため、以下のチェックリストで抜け漏れがないか確認してください。
- 「健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届」を雇用開始から5日以内に提出する
- 新入社員へマイナ保険証の利用案内を実施する(従来の健康保険証は新規発行が終了)
- 資格確認書の発行には2〜3週間(繁忙期は1ヶ月以上)かかるため、入社前に早めに手配する
- 労働条件通知書に年収見込み・所定労働時間・諸手当を明記する(2026年4月から扶養認定の判定基準として使用)
- 家族を扶養に入れる場合は、被扶養者認定の判定基準変更(労働契約書ベース)を本人に説明する
- 給与計算システムに2026年度の新しい社会保険料率が反映されているか確認する
- パート・アルバイトの従業員へ「106万円の壁」撤廃(2026年10月〜)を事前に説明・周知する
まとめ・ご相談案内
令和8年度の改正は、給与・社会保険まわりの実務対応が例年以上に多い年です。所得税改正による給与計算システムの見直し、インボイス制度の経過措置変更、社会保険料率の改定と適用拡大と、やるべき対応が4月と10月の2段階にわたって続きます。
「どの改正が自社に影響するのかわからない」「対応の優先順位をつけたい」という方は、ぜひ一度私どもにご相談ください。お客様の状況に合わせて、実務対応のポイントを丁寧にご説明いたします。